飲食店における人件費削減しすぎのリスク

飲食店における人件費削減しすぎのリスク 税理士が教える飲食店経営

飲食店を経営していると、人件費の管理に頭を悩ませることが少なくありません。売上が伸び悩む中、人件費を削減することは利益を確保するための重要な手段の1つです。しかし、人件費を削減しすぎてしまうと、かえって従業員のモチベーション低下を招き、サービスの質が下がってしまうリスクもあるのです

では、飲食店にとって適正な人件費率とは一体どのくらいなのでしょうか。人件費率の計算方法や業界の目安を知ることは、人件費管理の第一歩と言えます。また、人件費削減を進める際のポイントや、削減しすぎないためのバランス感覚も身につけておきたいものです。

この記事では、飲食店経営者の方々に向けて、人件費率に関する基本的な知識から、人件費削減のコツまでを丁寧に解説します。人件費の管理で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。きっと、明日からの経営に役立つヒントが見つかるはずです。

飲食店の人件費率はどのくらいが理想的?業界の目安を知る

飲食業界の平均人件費率

飲食店の人件費率は売上の30%程度が理想的と言われています。人件費率とは、売上全体に対して人件費がどのくらいの割合を占めているかを表す数値のことです。飲食店経営において人件費は利益に直結する重要な要素の1つで、コストの中でも大部分を占めているのです。そのため、売上がいくらあっても人件費が高ければ十分な利益を残すことはできません。一般的に、FLコスト(人件費と食材費)の合計が売上の60%以内に収まるのが望ましいとされ、それぞれ30%前後を目安にするとよいでしょう。

ジャンル別の人件費率目安

飲食店の業態やジャンルによって、人件費率の目安は異なります。たとえば、ファミリーレストランやファーストフード店などは、セルフサービスを取り入れたりシンプルなオペレーションにしたりと、人件費を抑えやすい業態だと言えるでしょう。一方、ファインダイニングのようなフルサービスの飲食店は、サービスの質を重視するため人件費率が高くなる傾向にあります。予算に合わせてサービスの内容を検討し、売上とのバランスを考えながら人件費をコントロールしていくことが大切です。同じジャンルでも、立地や客単価によっても人件費率は変動するので注意が必要です。

人件費率の計算方法

人件費率は「人件費÷売上×100」で計算することができます。ここでいう人件費には、従業員の給与だけでなく、残業代や交通費、社会保険料、福利厚生費なども含まれます。アルバイトのみで運営している飲食店の場合は、アルバイトの時給や交通費が人件費となります。事業主自身が店舗で働いている個人経営店なら、事業主の給与も人件費に含めなければいけません。売上が300万円で人件費が90万円の飲食店の人件費率は、90万円÷300万円×100で30%となります。このように、人件費率は売上に対する人件費の割合を%で示したものなのです。

人件費削減が必要な時の基本的な考え方

人件費削減の目的明確化

飲食店経営において、人件費削減に取り組む前に、まずはその目的を明確にしておくことが重要です。単に経費を抑えたいという理由だけでは、従業員のモチベーション低下や、サービスの質の低下につながりかねません。人件費を削減する目的として、利益率の改善、投資原資の捻出、経営効率化などが挙げられるでしょう。目的を具体的に設定することで、どの程度の削減が必要なのか、どのような方法が適しているのかが見えてきます。また、目的を従業員とも共有することで、人件費削減への理解と協力を得られやすくなるはずです。

人件費以外のコスト削減検討

人件費削減を検討する際は、同時に人件費以外のコスト削減についても考えてみましょう。食材費、水道光熱費、消耗品費など、見直せる部分がないかチェックすることをおすすめします。例えば、食材の仕入れ方法を工夫したり、無駄な在庫を減らしたりすることで、食材費を抑えられるかもしれません。照明をLEDに変更したり、節水に努めたりすれば、光熱費の削減につながります。こうした取り組みを積み重ねることで、人件費の削減幅を小さくできる可能性があるのです。飲食店経営では、FLコスト(人件費と食材費)全体のバランスを考えることが大切だと言えるでしょう。

人件費削減の優先順位決定

人件費削減の方法はさまざまありますが、優先順位を決めて段階的に進めていくのが効果的だと考えられています。まずは、アルバイトのシフト管理を見直したり、残業時間を減らしたりするなど、比較的取り組みやすく、従業員の理解も得られやすい施策から始めるとよいでしょう。次に、作業の効率化や業務のマニュアル化により、生産性を高める取り組みを進めます。これにより、少ない人数でも同じ作業量をこなせるようになります。さらに、将来的には自動化や機械化を検討するのも一案です。状況に応じて優先順位をつけ、従業員とコミュニケーションを取りながら進めることが重要なのです。

人件費を削減するための具体的な方法

シフト管理適正化での無駄削減

飲食店の人件費削減において、シフト管理の適正化は非常に効果的な方法の1つです。繁忙期と閑散期、曜日や時間帯によって必要な人員数は異なります。需要予測を踏まえて適切な人数を配置することで、無駄な人件費を削減できるでしょう。また、アルバイトの募集時に勤務可能な曜日・時間帯を細かく設定しておくことで、シフトが組みやすくなります。シフト作成アプリを活用すれば、誰でも簡単にシフトを組むことができ、人件費の管理もしやすくなるはずです。従業員の希望を考慮しつつ、経営的な視点からシフトを管理することが重要なのです。

マニュアル作成等での業務効率化

飲食店では、調理や接客、清掃など、さまざまな業務があります。これらの業務を効率化することで、人件費の削減につなげられます。業務マニュアルを作成し、従業員の教育に活用することをおすすめします。マニュアルがあれば、新人でもスムーズに業務を覚えられ、一定の質を保つことができるでしょう。また、ベテラン従業員の仕事のやり方を分析し、無駄な動作を削減したり、効率的な手順を共有したりすることも有効です。さらに、盛り付けの型を作ったり、食材の下ごしらえを工夫したりと、調理工程を見直すことで、作業時間の短縮が図れるはずです。

多能工化での人件費抑制

1人の従業員が複数の職務をこなせるようになると、少ない人数でも効率的に業務を回すことができます。これを多能工化と呼び、人件費抑制に役立つ手法の1つだと言えるでしょう。例えば、調理スタッフが接客も担当できれば、繁忙時のホール運営がスムーズになります。逆に、ホールスタッフが盛り付けや簡単な調理をこなせれば、厨房の負担を減らせるはずです。従業員のスキルアップを支援し、誰もが複数の業務をこなせるような体制を整えることが大切です。ただし、欲張りすぎず、従業員の能力や適性に合わせて進めることが求められます。

ITツール活用での人件費削減

近年、飲食店でもITツールの導入が進んでいます。ITツールを活用することで、業務の自動化や省力化が図れ、人件費の削減につながるのです。例えば、POSレジを導入すれば、オーダーの取りまとめや会計業務が簡素化できます。タブレットを使ったオーダーシステムなら、お客様ご自身での注文が可能となり、接客業務の負担が減らせるでしょう。また、自動釣銭機を設置すれば、お釣りの計算やお札・小銭の仕分けにかかる時間を削減できます。食材の在庫管理や勤怠管理のシステムを活用するのも効果的です。ITツールは導入コストがかかるものの、長期的には人件費の削減に寄与するはずです。

人件費を削減しすぎると起こるリスクとその対策

サービス品質低下リスク

飲食店経営において、人件費削減は重要な課題ですが、削減しすぎるとサービスの品質低下を招くリスクがあります。人手不足になれば、注文を取りに行く時間が遅れたり、料理の提供に時間がかかったりと、お客様を待たせてしまうかもしれません。また、店内の清掃や整理整頓がおろそかになり、衛生面での問題が生じる恐れもあるでしょう。接客の質が下がれば、お客様の満足度は低下し、リピーターの減少にもつながりかねません。よって、人件費削減を進める際は、サービス品質への影響を十分に考慮し、お客様の満足度を維持できる範囲内で行うことが大切だと言えます。

スタッフモチベーション低下リスク

人件費の削減は、従業員の給与やシフトの減少につながるため、スタッフのモチベーション低下を招くリスクがあります。給与が下がれば、生活への影響は避けられません。シフトが減れば、働きたくても働けない状況になるかもしれません。さらに、人手不足による業務量の増加は、従業員の身体的・精神的な負担を増大させるでしょう。モチベーションが低下すれば、仕事への意欲や責任感が薄れ、サービスの質の低下にもつながりかねません。従業員が働きやすい環境を整え、適正な評価と処遇を行うことが、モチベーション維持には欠かせません。従業員の理解と協力を得ながら、人件費削減を進めることが重要です。

人材定着率低下と採用コスト増大

過度な人件費削減は、優秀な人材の定着率低下と、採用コストの増大を招くリスクがあります。給与水準が下がれば、他店への転職を考える従業員も出てくるでしょう。特に、優秀な人材ほど、より良い条件を求めて流出しやすくなります。人材が定着しなければ、採用と教育にかかるコストが増大し、安定した店舗運営が困難になるかもしれません。新人の教育には時間がかかるため、一時的にサービスの質が低下することも避けられません。定着率を高めるには、従業員の満足度を高め、長く働き続けたいと思えるような環境づくりが不可欠です。人件費削減と従業員の満足度のバランスを取ることが求められます。

適正人件費維持とモチベーション向上

サービスの質を維持し、従業員のモチベーションを高めるには、適正な人件費の維持が重要になります。経営状況を踏まえつつ、従業員の給与水準や福利厚生の充実を図ることが望ましいでしょう。また、人件費削減の取り組みと並行して、従業員のモチベーション向上策を講じることも効果的です。例えば、優秀な従業員を表彰したり、研修の機会を提供したりと、成長やスキルアップを支援する取り組みが考えられます。コミュニケーションを密にし、従業員の意見や要望に耳を傾けることも大切です。時には、飲食店の税理士など専門家のアドバイスを受けながら、人件費管理とモチベーション向上の方策を探ってみるのも良いかもしれません。

人件費はFLコストの一部!トータルバランスが重要

FLコストと人件費の関係性

飲食店経営において、人件費は重要な管理項目ですが、人件費だけを単独で考えるのではなく、食材費とのバランスを意識することが大切です。FLコストとは、Food(食材費)とLabor(人件費)を合わせたコストのことを指します。一般的に、FLコストは売上の60%程度に抑えることが理想とされています。つまり、人件費と食材費の合計が売上の60%以内に収まるよう、バランスを取る必要があるのです。人件費が高くても、食材費を抑えることでFLコスト全体のバランスを保つことができます。逆に、食材費が高い場合は、人件費を調整するなどの対応が求められるでしょう。

FLコストバランスを考慮した管理

FLコストのバランスを考慮した管理を行うには、まず売上に対する人件費と食材費の割合を正確に把握することが重要です。POS システムなどを活用して、日々の売上や費用を記録し、データに基づいた分析を行いましょう。その上で、目標とするFLコストの割合を設定し、それに向けて人件費と食材費のコントロールを行います。例えば、食材の仕入れ方法を見直して食材費を削減したり、メニュー開発により客単価を上げて売上を増やしたりするなど、さまざまな方策が考えられます。人件費削減も選択肢の1つですが、過度な削減は避け、バランスを重視することが肝要です。状況に応じて、飲食店の税理士に相談しながら、最適な方法を探るのも良いかもしれません。

売上増による人件費率適正化

FLコストのバランスを取るためには、人件費や食材費の削減だけでなく、売上増加による人件費率の適正化も重要な戦略の1つです。売上が増えれば、人件費の割合は相対的に下がります。例えば、人気メニューの開発や販促活動により集客力を高め、客数を増やすことで売上アップを目指せるでしょう。また、客単価を上げる工夫も効果的です。メニューの組み合わせ方を見直したり、接客レベルを上げたりすることで、お客様により多く買ってもらえる可能性があります。テイクアウトやデリバリーサービスの導入により、新たな収益源を確保するのも一案です。売上増加に向けた取り組みを進めながら、人件費率を適正な水準にコントロールしていくことが求められるのです。

飲食店が人件費削減で利益を上げるための秘訣

人件費管理の重要性認識

飲食店経営において、人件費は大きな割合を占める重要な管理項目です。人件費を適切にコントロールすることは、利益を上げるための鍵となります。そのためには、まず人件費管理の重要性を認識することが不可欠でしょう。売上に対する人件費の割合を常に意識し、データに基づいた分析を行うことが求められます。POS システムなどを活用して、リアルタイムに人件費の状況を把握できる体制を整えるのも有効です。また、同業他社の人件費率を参考にしたり、飲食店に特化した税理士に相談したりするなど、専門的な知見を取り入れることも大切です。人件費管理は経営の根幹に関わる重要事項であることを認識し、経営戦略の中心に据えて取り組むことが求められるのです。

人件費削減と業務効率化のバランス

人件費削減は利益を上げるための重要な手段ですが、削減と業務効率化のバランスを取ることが成功の秘訣だと言えます。単に人件費を減らせば良いというわけではありません。従業員の負担が増えすぎれば、モチベーションの低下やサービス品質の低下を招く恐れがあります。人件費削減と並行して、業務効率化の取り組みを進めることが不可欠なのです。例えば、調理工程の見直しや、マニュアルの整備による作業の標準化などが考えられます。ITツールの活用により、オーダーや会計業務を自動化するのも有効でしょう。従業員の働き方を改善しながら、人件費削減と業務効率化を両立させることが、利益アップにつながるのです。

スタッフとのコミュニケーションで理解

人件費削減を進める上で、従業員の理解と協力を得ることが何より重要です。トップダウンで一方的に進めるのではなく、スタッフとコミュニケーションを取りながら進めることが成功の鍵を握ります。まずは、人件費削減の必要性や目的を丁寧に説明し、理解を求めることから始めましょう。そして、従業員の意見や提案に耳を傾け、改善策を一緒に考えていく姿勢が大切です。時には、個人面談の機会を設けるなど、一人ひとりの状況に合わせたきめ細やかなコミュニケーションが求められるでしょう。従業員が納得した上で取り組めば、人件費削減の効果も高まるはずです。経営者とスタッフが一丸となって取り組む体制を築くことが、利益向上への近道なのです。

継続的な改善の心がけ

人件費削減は一朝一夕で成果が出るものではありません。継続的な改善の積み重ねこそが、利益向上につながるのです。まずは、現状の課題を洗い出し、優先順位を付けて改善策を立案します。そして、PDCAサイクルを回しながら、着実に実行していくことが求められます。効果を検証し、必要に応じて方策を修正するなど、柔軟な対応も必要でしょう。また、従業員の意見を定期的に聴取し、改善策に反映させることも重要です。外部環境の変化にも目を配り、状況に応じて方針を見直すことも肝心です。飲食店を取り巻く環境は常に変化しています。その変化に適応しながら、継続的に改善を重ねることが、人件費削減と利益向上の秘訣と言えるのです。

飲食店における人件費削減しすぎのリスクのまとめ

飲食店経営において、人件費率は重要な管理指標の1つです。売上に対する人件費の割合を適切にコントロールすることが、利益を生み出すカギとなります。一般的に、飲食店の人件費率の目安は30%程度とされていますが、業態やジャンルによって異なります。

人件費率を計算することは、自店の現状を把握し、改善策を考える上で欠かせません。そして、人件費削減に取り組む際は、サービス品質の維持や従業員のモチベーション管理とのバランスを大切にすることが求められます。削減しすぎは、かえって業績悪化を招く恐れがあるのです。

飲食店が長期的に利益を上げていくためには、人件費を含むFLコスト全体の最適化が不可欠です。状況に応じて、売上アップと組み合わせるなど、柔軟な発想も必要でしょう。人件費率を意識しながら、継続的な改善を積み重ねていくことが、飲食店経営成功の秘訣なのです。

項目 ポイント
人件費率の目安 30%程度(業態やジャンルにより異なる)
人件費率の計算方法 人件費÷売上×100
人件費削減のリスク サービス品質低下、モチベーション低下など
FLコストとの関係 人件費と食材費のバランスが重要
人件費削減のコツ 業務効率化、スタッフとのコミュニケーションなど